テキストのやりとりだけでおおかたのことをコミュニケートできる組織や取引圏を創る(2)

前回の続きです。

もし、テキストのやりとりだけでおおかたのことをコミュニケートできる組織や取引圏を創れたら、その組織や圏内にいる人は今までよりももっと自由に動き回れ、いろんな人と直接会うことができるようになります。

前回の文章を読んで、私がface to faceのやりとりを軽視していると感じた方もいらっしゃるかも知れませんが、それは全くの誤解です。テキストのやりとりだけでおおかたのことをコミュニケートできるようにするのは、何よりもface to faceでなければできない最も重要な話をする時間を増やすためでもあります。

テキストのやりとりだけで済む用件についてわざわざface to faceで話をしていたら、その分、最も重要な話をface to faceでする時間が減ります。後者のやりとりを大切にする人たちは、できるだけテキストのやりとりで用件を済まし、時間を捻出する努力をするでしょう。些細な用件でもいちいち会って話をしたいと申し出るのは、相手の貴重な時間を奪うようなものです。相手の時間を尊重する者同士では、テキストのやりとりで済むことは電子メールを使おうというコンセンサスを簡単に形成できます。

時間の大切さを知る人たちだけで、会社を作ったり、取引を行えば、非常によい組織や経済圏ができると思います。

理想的な状態が実現した状況では、例えば、組織の戦略や改革案を練り上げるために、経営陣全員が会社を離れて景色の良い宿に泊まり、来客や他の用事に邪魔されることなく、数日間、濃密な話し合いをすることもできます。

「合宿」の間、部下からの報告などは電子メールで受け取り、必要な決裁は電子メールで行えばよい。これは会議中にもできることです。会議を中断する必要もありません。部下と電話で話をする必要がある場合には、電子メールで約束の日時を決めて、会議の休憩時間にでも話をすればいい。

でも、用件をきちんと文章で伝えることができる者同士では、電話のお世話にならなければならない場面は本当に限られています。わざわざ約束の日時を決めて電話で話をするよりも、数回メールのやりとりを交わす方が物事が早く処理できることが多い。

経営者が飛び込みの雑多な用事に忙殺されているような状況では、よい意思決定はできません。質の高いプランを創るにはたくさんの時間と密度の高い話し合いが必要です。

経営陣や上級管理職・中間管理職クラスが電子メールを使ってまともにコミュニケートできない企業は、今後ますます変化が激しくなる環境の中で生き残るために不可欠な戦略や改革案を練り上げる時間を確保できず、淘汰されていくと思います。

テキストのやりとりだけでおおかたのことをコミュニケートできる組織や取引圏を創ることは、多くの場合、とても時間がかかります。会社の業種や規模によっては10年以上もかかってもおかしくはありません。しかし、これをやり遂げることができなければ、市場から消えていくことになるでしょう。

電子メールが普及し始めた時点で、このことに気づかなかった方は、市場の厳しさや残酷さがわからず、先が見えない人であると断定してもよいと思います。現時点でも、電子メールの重要性や革新性について気づいていない人物が経営している企業は、10年後は存在しない可能性が高いでしょう。

さて、現場の人たちについてはどうでしょうか。「現場の作業者は文章を書くことが苦手だから、テキストだけでおおかたのことをコミュニケートできるようになるのは無理だ」という批判やご意見もあります。しかし、「無理」というのは正しくはありません。

昭和20年代後半から、日本の企業の中には、現場の作業者に文章を書かせたり、自分が考えた改善提案について人の前でプレゼンテーションをさせたり、ということに積極的に取り組んだ例が数多くあり、これが、その後の日本の「カイゼン」や「QCサークル」の基礎になるのですが、私はかつて研究のためにそれらの文章や資料を収集したことがあり、現在も私の手元にあります。その中にはかなり見事な文章やプレゼン資料があります。

過去にそういう例がたくさんある以上、「無理」と考えることは間違いです(ただ、簡単には実現できません。進め方があります。それについては稿を改めて書きます)。

「カイゼン」や「QCサークル」は生産現場の生産性や製品の品質を引き上げるのに大きな威力を発揮しましたが、ホワイトカラーの生産性はあまり改善されないまま現在に至っており、長時間労働を強いられて、朝から深夜近くまで働き詰めの人は珍しくありません。

欧米の後追いをしている時代には、それでもよかったのかも知れませんが、新しい価値を生み出したり、激化している環境の変化に適応するための改革を行うためには、深く考えたり試行錯誤をするためのまとまった時間が必要です。十分な睡眠をとることも大切でしょう。

その時間を捻出するためにも「テキストのやりとりだけでおおかたのことをコミュニケートできる組織や取引圏を創る」ことが不可欠だと私は考えています。これは日本経済が再生するための必要条件でもある。「時間」や「生産性」の重要性について熟知していない人が立案する経済政策は必ず頓挫するでしょう。

人々が文章を書き慣れると、テキストのやりとりだけで済んでしまう用事が増えて、まとまった時間を確保し易くなりますし、自分の考えを文章で表現することができるようになれば組織や業界・社会の考える力の水準も向上します。この水準が落ちると、組織や業界社会は衰退していく。

日本の学校教育では、文章を書くことに苦手意識を持つ人々を大量に生み出していますが、ここは今すぐにでも改めるべきところだと思います。

 

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